デング熱の流行 -アフリカ

EurosurveillanceVolume15, Issue7 2010年2月18日

アフリカからイタリアへのデングウイルス3型の輸入例-2009年10月

2009年10月に、アフリカからイタリアに帰国した渡航者に、原因不明の出血熱を示唆する症状が出現して入院しました。患者はすぐに特別な感染管理病棟に移され、調査の結果、デングウイルス3型に感染したと確定されるまで感染管理病棟に入っていました。この事例は、他の国で発生している未知のアウトブレイクの定点として、渡航者の重要性を改めて主張しています。また、デング熱の初期の症状は他の出血熱の症状に似ているので、確定診断が得られるまで、患者を迅速に隔離することの重要性を強調しています。

症例

2009年10月、イタリアに20年間住んでいる40歳代のセネガル人男性が、セネガルの故郷の村に4ヶ月滞在した後、マドリード経由で帰国し、3日後に北イタリアのトリノ市のA病院を受診しました。彼は、セネガルの村に滞在中、村からは出ず、保健医療センターの受診もしませんでした。最初の症状は、マドリードからトリノへの飛行中、持続する発熱(38℃)と、持続する頭痛が出現し、パラセタモールの治療にもかかわらず、受診前2日間で悪化しました。入院当日の検査では、血小板が5,000細胞/mm3、肝機能検査では、ASTが3,539U/L、ALTが815U/L、LDHが3,609U/L、 γGTPが112U/Lでした。患者は、最初、トリノの感染症病院(病院B)に転院し、2日後に、ウイルス性出血熱の疑いで、新興感染症とバイオテロの国立レファレンスセンターである、ローマの国立感染症病院(病院C)に転院しました。患者はその夜に、特別な感染管理病棟に入院しました。その後、患者の症状は改善し、入院後9日目に退院しました。

最近の西アフリカにおけるデングウイルス3型の拡大

アフリカでは、サーベイランスシステムがないか、限られているので、アフリカ大陸でのデング熱の疫学についてはほとんどわかっていません。帰国したヨーロッパ渡航者から得られる血清学的データとウイルス学的データは、このしばしば不備である情報を補う重要なデータです。過去数年、デングウイルス3型が西アフリカで発生し、ヨーロッパに帰国した渡航者から発見されてきました。カーボヴェルデにおける最初のデング熱の流行は、2009年9月から12月までの間で、17,000人を超える患者が発生しており、このことは、デングウイルスが、世界中で新たな地域へと拡大していることを示しました。

はじめに

デングウイルスは熱帯・亜熱帯の国に広く分布し、日中に刺すヤブカ(Aedes)属の蚊によって感染します。アフリカの国々では、サーベイランスシステムがないか、実施が不十分で、デングウイルスの活動性についての情報の不足が原因となり、しばしば認知されていません。

発熱のある渡航者を対象とする、デングウイルス感染の検査に基づくサーベイランスは、世界中、特にサーベイランスが限られている地域で、流行しているデングウイルスの異なる型に関する有益な情報を提供するかもしれません。このため、ヨーロッパの輸入ウイルス性疾患-共同検査対応ネットワーク(ENIVD- CLRNネットワーク)は、アウトブレイクの支援、特に、欧州連合(EU)加盟国、欧州経済領域・欧州自由貿易連合(EEA/EFTA)の加盟国と加盟候補国に対して、アウトブレイクを起こしやすい疾患、輸入例や稀な、あるいは未知の病原体、病原体の意図的な放出に関連するアウトブレイクを発見、調査、対応することへの支援を提供しています。

2009 年末に、カーボヴェルデ諸島で、17,000人を超えるデング熱の大規模なアウトブレイクが起こりました。デングウイルスがカーボヴェルデ諸島で検出されたのは、これが初めてでした。同じ時期にセネガルで、デングウイルスが検出され、西アフリカから帰国した渡航者の輸入例が数例報告されました。本稿は、西アフリカに焦点を当て、アフリカのデングウイルスの歴史的な報告の簡潔な再検討と、最近のアウトブレイクとヨーロッパのデングウイルス感染の輸入例の関連を要約します。

西アフリカのデングウイルス

アフリカにおけるデングウイルス感染の負荷は、まだ推計されていません。デング熱とデング出血熱の発生についての記録は乏しいですが、アフリカの国々での、軽症と重症のデング熱感染がまれであると結論づけることはできません。異なるデングウイルスの型の流行についての記録も不十分です。しかし、アフリカのアウトブレイクと血清学的調査や、関連した渡航者のデングウイルス感染について、若干の情報が発表されています。

1956年に実施された後ろ向きの血清学的調査で、1927年に南アフリカのダーバンでデングウイルスの流行が起こったことが示唆されています。この報告は、アフリカでデングウイルスの流行が記録された最初の報告です。しかし、 1960年代の終わりまでは、アフリカでデング熱のアウトブレイクを起こすウイルスは分離されませんでした。デングウイルス1型は1964年にナイジェリアで発見されました。それ以来、西アフリカでは、デングウイルス1、2、4型が流行していますが、主に報告されてきたのはデングウイルス2型でした。ウイルスは、主に、セネガルとナイジェリアで、蚊の唾液での感染サイクルに関係する野生の蚊(Aedes luteocephalus、Ae. taylori 、Ae. furcifer)で検出され、人では、森林での感染サイクルに接点のあった数名の患者から検出されました。また、コートジボワール、ブルキナファソ、ギニアでも、蚊の唾液での感染サイクルで、デングウイルス2型が検出されました。最近では、2005年に、ガーナから帰国した渡航者で確認されました。西アフリカで、デングウイルス4型が最近発見されたのは1980年代で、セネガルのダカールの住民2人でした。

アフリカでのデングウイルス3型の最初の記録は、モザンビークのペンバで1984年から1985年に起こったアウトブレイクに関するもので、デング出血熱で 2人死亡者が出ました。それから、デングウイルス3型は、1993年に、ソマリアとペルシャ湾の周辺地域で発見されました。系統学的な研究で、これらのアウトブレイクは、インド亜大陸から入ってきたウイルスに起因することが示唆されました。西アフリカでのデングウイルス3型の最初の流行は、2006年にカメルーンからスペインに帰国した渡航者で確認され、その後、2007年に、セネガルからスペインに帰国した渡航者で発見されました(C. Domingoらの未発表データ)。西アフリカにおけるデングウイルス3型についての最初の論文は2008年に発表されましたが、そのとき、コートジボワールではデングウイルス3型と黄熱の同時流行がみられました。

アフリカからヨーロッパへのデングウイルスの輸入例

ヨーロッパへのデングウイルスの輸入例の報告は1990年代から増加しました。その報告のいくつかは、単一の国から、あるいはネットワークからの発表や報告であり、アフリカでデングウイルスに感染した渡航者の頻度は、東南アジアやアメリカ大陸への渡航者に比べて、相対的に低いことを示しています。この分布は、主に、世界中のデングウイルスの活動性と、渡航先として特定の国々の人気という2つの要因によります。ヨーロッパの輸入感染症サーベイランス(TropNetEurop)によって、1999年と2000年に481人のヨーロッパの渡航者を対象として行われた研究では、デング熱の8%がアフリカからの輸入例で、他のヨーロッパの研究と同様の割合でした。フランスでは、2002年から2005年のデング熱の輸入例のうち、アフリカからの事例が 14%でした。オーストリアでは、15年間(1990年から2005年)の分析で、アフリカからの輸入例は10%であり、フィンランドでは、10年間(1999年から2009年)の分析で、アフリカからの輸入例は同様に10%でした。2008年に、TropNetEuropに報告されたアフリカからのデング熱の輸入例は4%に低下しました。

西アフリカからのデングウイルスの輸入例(2006年から2008年)

最近、西アフリカの数ヶ国から帰国した渡航者のデング熱の事例が記録されており、特に、この地域で最近確認されたデングウイルス3型に起因しています。

2006年1月から2008年8月に、フランスでは西アフリカからの輸入例が19人報告されました。そのうち、11人がコートジボワールへの渡航者(2006年1人、2007年3人、2008年7人)、4人がブルキナファソ(2006年1人、2007年3人)、ベナンが2人(2006年)、セネガルが1人(2007年)、マリが1人(2008年)でした。この期間に検出されたデングウイルスは、2007年に、ブルキナファソで1型、コートジボワールで2型、ガボンでは2型がチクングニヤと同時にアウトブレイクを起こしていました。2008年には、マリとセネガルで2型が確認されました。さらに、 2008年の5月から7月の間に、日本人の渡航者と、コートジボワールから帰国したフランスの国外在住者で、デングウイルス3型が発見されました。デングウイルス3型は、2008年に東アフリカでも発見されており、エリトリアから帰国したフィンランドの渡航者で発見されました(O.Vapalahtiの私信)。

西アフリカにおけるデングウイルス3型の最近の活動性

2009年10月上旬に、休日に祖国に渡航後、イタリアに帰国したセネガル人のデング熱が報告されました。デングウイルス3型の診断は、ローマの国立感染症研究所で行われました。同時に、フランスでもセネガルから帰国した渡航者のデングウイルス3型の患者を報告しました。(C. Renaudatの私信)。また、ProMEDでも、セネガルのケドゥンゴ地域とダカールでのデングウイルスのアウトブレイクを記載した文書が送られました。ダカールのパスツール研究所で、発熱のある患者からデングウイルス3型が確認されました(A. Sallの私信)。

一方、2009年9月上旬(第40週)に、カーボヴェルデ諸島で、前例のないアウトブレイクが発見されました。これは、カーボヴェルデ諸島におけるデング熱感染の最初の報告です。第45週に患者の数が最も多く(5,512人)、第47週に1,447人に低下し、最終的に、第53週で5人の患者が出ました。 2009年末までに、カーボヴェルデの22の自治体のうち18の自治体から、6人の死亡を含む、合計17,224人の患者が報告されました。サンチャゴ島のプライアで最も患者が多く(13,000人)、次いで、フォゴ島のサン・フェリペで多く報告されました(3,000人)。ダカールのパスツール研究所で検査された最初の検体は、デングウイルス3型の流行を確認しました。

ヨーロッパで最近輸入されたデングウイルス3型の患者と、西アフリカで確認されたアウトブレイクは、この地域でこの型が拡大していることを示唆しています。

この地域で最近起こったデングウイルス3型の感染について遺伝学的な関係を調べるために、ENIVD-CLRN研究所から提供されたシークエンスを用いて、系統学的なアプローチを使った調査を行いました。デングウイルス3型は地理的に異なった4つの遺伝子型(Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ)に分類されます。1980年代の終わりにスリランカで発生した病原性の強いⅢ型の系統の出現が、主に、アジアとアメリカ大陸における、この疾患の高い発病率とデング出血熱の発生に関連していました。1984年から1993年に東アフリカで検出されたデングウイルス3型は、すべて、このⅢ型の系統に属していました。

また、地理的に離れたアウトブレイクでの分離株で、ENIVD Spain ex Cameroon2006系統、Japan ex Ivory Coast2008系統、Saudi Arabia2004系統(上図に示されています)、Eritrea in2008系統 (図には示されていません。E. Huhtamoらの未発表データ)は、デングウイルス3型のⅢ型に属しています。2009年にセネガルで流行したデングウイルス3型とイタリアの渡航者から分離されたウイルスはⅢ型に属しており、2008年にコートジボワールで流行したデングウイルス3型と近縁でした。したがって、カーボヴェルデ島で起こったデングウイルス3型は、貿易や旅行で行き来が盛んな、地理的に近い、西アフリカから持ち込まれたものと思われます。

将来の展望

西アフリカにおける、最近のデングウイルス3型の拡大は、この地域から帰国したヨーロッパの渡航者で最初に発見され、輸出国の積極的なサーベイランスのための警報となりました。

しかし、アフリカのほとんどの国では、黄熱とHIV感染のサーベイランスの準備はされていますが、デングウイルスの特異的診断法が不足しており、新しい診断器具が必要としています。そのような技術移転の最近の例として、パリとダカールにあるパスツール研究所が、アビジャンのパスツール研究所にデングの鑑別診断法を提供しました。この協力モデルは、他のアフリカ諸国でも必要です。

アフリカにおけるデングウイルスの積極的なサーベイランスが不十分である限り、ヨーロッパに帰国する発熱した渡航者の研究は、アフリカ大陸でのウイルスの活動を検出する助けになるでしょう。

ENIVD- CLRNの一部として、ヨーロッパの渡航者におけるチクングニヤとデングウイルス感染の輸入例に関する共同研究が2010年に始まる予定です。研究の目的は、チクングニヤとデングウイルス感染の、遺伝子型の分布を含む、世界的な流行分布地図を完成させることです。

これによって、臨床医がヨーロッパの輸入例について、臨床症状、徴候、分析データを比較できるようになるでしょう。ヨーロッパに帰国する渡航者のサーベイランスは、アフリカにおけるデングウイルスの分布について、我々の知見を向上させ続けるでしょう。

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