知っておきたいこと

その薬本当に効くの?-ニセ薬について

旅先で具合が悪くなったらどうしますか?日本だったらとりあえず薬局に行って薬を買ったり、病院に行って治療薬を処方してもらったりしますよね。ところが、日本の常識が海外では思わぬ落とし穴へと導く可能性があるのです。

世界の多くの地域でニセ薬が問題となっています。ニセ薬を買ってしまう可能性は、アフリカ、アジア、そしてラテンアメリカの特定の地域では実に30%以上にもなるとされています。また、ニセではないものの効果の薄い医薬品も出回っています。命に関わるマラリアの薬も例外ではありません。ニセ薬を飲んだばかりに病気が治らず死んでしまうなんて、考えたくもないですね。それではどうすればよいのでしょう。

まず、第一に必要な薬は日本国内でそろえておくことです。特にご自分に慢性の病気がある場合、その治療薬は十分な量用意するようにしてください。また、必要な地域ではマラリアの薬、旅行にともないがちな下痢に対する薬なども十分ご用意ください。チェックインした荷物が紛失することもありえます。必ず機内に持ち込む手荷物の中にも十分な薬を入れるようにしておいて下さい。

どうしても海外で薬剤が必要になった場合には、以下の点を守って下さい。

・許可をえている薬局で購入し(ただし、これを知ることが困難な場合もあります)、領収書を請求すること。
・極端に安い薬を買わないこと。
・錠剤やカプセルをばら売りでもらう場合には、元容器をみせてもらい、商品名、製品番号、有効期限を記録して下さい。このような態度によって売り手も慎重になります。
・包装に問題がないかチェックして下さい。つづりが間違っているもの、印刷の質が悪いものには注意してください。
・箱入りの薬については、添付文書がついていることを確認してください。

この虫に注意!

虫(昆虫をふくむ節足動物)には、病原体(ウイルス・細菌・寄生虫など)を運んで、人に病気をうつすものがあります。このような虫はベクターとも呼ばれます。この中には、体の表面に病原体を付着させて運ぶだけのもの(ハエなど)と体の中に病原体を取り込んで増やしたり、育てたりして人に感染させやすくするもの(蚊やダニなど)がいます。これらの虫は、外国、特に発展途上国ではふつうにいる『虫』としてみられ、年間数千人から数百万人規模の病気の流行を引き起こしています。病気になって楽しいはずの旅行がだいなしにならないためにも、予防は不可欠です。虫除け対策をしっかりしましょう。虫によってうつる病気と、それをうつす『虫』についてはこちらをご参照ください。
(画像はクリックすると拡大表示します。)
(1)蚊によってうつる病気
黄熱 ネッタイシマカ

症状
発熱、頭痛、筋肉痛、悪心、嘔吐、出血、タンパク尿、黄疸など
潜伏期間
3~6日
分布
アンゴラ、カメルーン、ガンビア、ギニア、マリ、ケニア、ナイジェリア、スーダン、コンゴ民主共和国(旧ザイール)、ボリビア、ブラジル、コロンビア、エクアドル、ペルー
予防法
予防接種 虫除け剤の使用、服装の注意(日中に活動する蚊です)
ネッタイシマカ
ネッタイシマカ
マラリア ハマダラカ

症状
悪寒、発熱、嘔吐、頭痛、筋肉痛など マラリアの種類によって発熱間隔が異なる
潜伏期間
種類によって異なり、6~30日前後
分布
アジア地域は山岳部や農村部
アフリカ地域は都市部でも
南アメリカ地域は平野部と森林地帯が主
予防法
蚊取り線香、虫除け剤の使用、服装の注意 予防薬の服用

ハマダラカ
デング熱 ネッタイシマカ、ヒトスジシマカ

症状
発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛、発疹
潜伏期間
2~15日、通常、2~7日
分布
熱帯・亜熱帯アジア全域、西アフリカ、北オーストラリア、ミクロネシア、ポリネシア、カリブ海諸国、中南米など広く
予防法
虫除け剤の使用、服装の注意

ヒトスジシマカ
バンクロフト糸状虫症(リンパ性フィラリア症) ネッタイイエカ、アカイエカ、シナハマダラカ、トウゴウヤブカ

症状
リンパ腺炎、リンパ管炎、発熱
潜伏期間
非常に長く、平均9か月
分布
アジア、アフリカ、南アメリカ地域に広く
予防法
虫除け剤の使用、服装の注意

アカイエカ
マレー糸状虫症(リンパ性フィラリア症) ヌマカ、ヤブカ、ハマダラカ

症状
手足のむくみ、リンパ管炎、リンパ節の痛み、悪寒、発熱
潜伏期間
6か月から1年
分布
熱帯・亜熱帯のアジア地域に広く(東南アジア全域、インド、スリランカ、バングラデシュ)
予防法
虫除け剤の使用、服装の注意
 
 
(2)ハエ、その他の昆虫によってうつる病気
内臓リーシュマニア症(カラアザール) サシチョウバエ

症状
発熱、肝臓の障害、脾臓のはれ、重症になると全身衰弱から死亡
潜伏期間
数週間から数か月と長期間
分布
アジア:中国南部、インド、バングラデシュ
アフリカ:ガボン、ナイジェリア、シエラレオネ、サウジアラビア、スーダン、ケニア、モロッコ、アルジェリア、チャド
南米:ブラジル北東部沿岸、アルゼンチン中央部
予防法
サシチョウバエに吸血されないように虫除け剤の使用、服装の注意

サシチョウバエ
皮膚リーシュマニア症 サシチョウバエ

症状
吸血された部分の腫れ、腫瘍、壊死
潜伏期間
数週間から数か月と長期間にわたる
分布
アジア:インド西部、中近東の一部地域
アフリカ:エジプトなどの地中海沿岸、ケニア、ナイジェリア、ガーナ、ギニアなど
南米:メキシコ、グアテマラからアマゾン流域
予防法
サシチョウバエに吸血されないように虫除け剤の使用、服装に注意
 
粘膜皮膚リーシュマニア症 サシチョウバエ

症状
皮膚症状から始まり、鼻、口の周辺に拡大、鼻中隔、口唇、口蓋が欠損
潜伏期間
数週間から数か月と長期間
分布
中南米:ブラジル、アルゼンチン、ペルー、エクアドル、ボリビア、ベネズエラ、パラグアイ、コロンビア、ギアナ、パナマなどの森林地帯とその周辺部
予防法
サシチョウバエに吸血されないように虫除け剤の使用、服装に注意
 
アメリカトリパノソーマ症(シャーガス病) サシガメ(カメムシの一種)

症状
急性期:発熱、頭痛、疲労感 慢性期:肝臓や心臓の障害
潜伏期間
1~3週間
分布
中南米全般、特にブラジル、アルゼンチン、ベネズエラ
予防法
サシガメに吸血されないように虫除け剤の使用、服装の注意

ブラジルサシガメ
アフリカトリパノソーマ症(アフリカ眠り病) ツェツェバエ

症状
急性期:発熱、頭痛、発疹、リンパ節のはれ
慢性期:意識混濁、睡眠状態を起こし死亡
潜伏期間
2~3週間、時には1ヶ月以上
分布
アフリカ大陸 赤道から南北緯20度の範囲
予防法
ツェツェバエに吸血されないように虫除け剤の使用、服装に注意

ツェツェバエ
オンコセルカ症 ブユ(小型で2~4mm位)

症状
皮膚に痛みのないコブ、かゆみのある皮膚炎 目に角膜炎や視力障害
潜伏期間
おおよそ1年
分布
アフリカ:赤道から南北緯25度の範囲
中南米:メキシコ南部、グアテマラ、コロンビア、ベネズエラ
予防法
ブユに刺されないように虫除け剤の使用、服装に注意

ブユ
ロア糸状虫症 アブ(大型で5~10mm位)

症状
虫が皮膚に移動するとはれ、目に移動すると痛みやはれがでる
潜伏期間
不定
分布
中央・西アフリカ、特にコンゴ民主共和国(旧ザイール)、コンゴ共和国、アンゴラ、ガボン、中央アフリカに多い
予防法
アブに刺されないように虫除け剤の使用、服装に注意

アブ
 
(3)ノミによってうつる病気
ペスト ケオプスネズミノミ

症状
リンパ腺炎、皮膚の出血斑、発熱、意識障害、肺炎(肺ペスト)
潜伏期間
2~6日
分布
ベトナム、タンザニア、マダガスカル、コンゴ民主共和国(旧ザイール)、ブラジル、ペルー
予防法
ノミに刺されないようにすること

ケオプスネズミノミ
発疹熱 ネズミノミ

症状
発熱、頭痛、発疹
潜伏期間
6~15日、通常12日ぐらい
分布
全世界、衛生状態の悪い地域に多い
予防法
ネズミが多い地域ではノミに刺されないようにすること
 
 
(4)ダニによってうつる病気
ダニ媒介性脳炎 ダニ

症状
頭痛、発熱、悪心、嘔吐、昏睡、痙攣、麻痺が起こり死亡することも
潜伏期間
8~14日
分布
ロシア、東欧諸国、デンマーク、フィンランド、スウェーデン、ドイツ
予防法
流行する森林地帯などに行く人は虫除け剤の使用、ダニに咬まれない服装をすること
 
ライム病 マダニ

症状
皮膚に赤い斑点、頭痛、発熱、悪寒、全身倦怠感、髄膜炎、関節炎など
潜伏期間
数日~数週間
分布
北米およびヨーロッパ全域の森林地帯
予防法
流行する森林地帯などに行く人は虫除け剤の使用、ダニに咬まれない服装をすること

マダニ
クリミア・コンゴ出血熱 マダニ

症状
発熱、頭痛、筋肉痛、倦怠感、意識混濁、出血など
潜伏期間
1~3日
分布
カザフスタン、ウズベキスタン、ユーゴスラビア、ブルガリアなどの草原地帯, 熱帯アフリカ、南部アフリカの一部の地域
予防法
流行する森林地帯などに行く人は虫除け剤の使用、ダニに咬まれない服装をすること
 
ツツガムシ病 ツツガムシ

症状
初めは刺された部分が赤く腫れ、その後かさぶた化 さらに発熱、頭痛、悪寒、発疹が出現
潜伏期間
8~11日
分布
アジア全域、北オーストラリア の草原地帯
予防法
流行する森林地帯などに行く人は虫除け剤の使用、ツツガムシに咬まれない服装をすること

ツツガムシ
ロッキー山紅斑熱 マダニ

症状
頭痛、悪寒、筋肉痛、発熱、発疹
潜伏期間
3~14日
分布
アメリカ東南部、カナダ
予防法
流行する森林地帯などに行く人は虫除け剤の使用、ダニに咬まれない服装をすること
 
 
(5)シラミによってうつる病気
発疹チフス コロモジラミ

症状
頭痛、悪寒、発熱、全身の疼痛がある全身の発疹が現れる
潜伏期間
6~15日 通常12日
分布
全世界に分布 衛生状態の悪い地域で多い
予防法
衛生状態の悪い場所ではシラミに咬まれない服装をすること

コロモジラミ

こんなに怖い寄生虫

今日の日本では、寄生虫病にかかる人は少なくなりました。ですが、海外ではとても多くの人が寄生虫病にかかり、そして命を落としています。寄生虫の恐ろしさを知っていただくため、いくつかの例をご紹介いたしましょう。

寄生虫の中には、脳に寄生するものが数多くあり、有鉤嚢虫(ゆうこうのうちゅう)はその一つです。有鉤嚢虫は、有鉤条虫(ゆうこうじょうちゅう)(サナダムシの一種)の幼虫で、ブタに寄生しています。人がそのようなブタの肉を十分加熱せずに食べた場合、腸の中で成虫(有鉤条虫)となり、糞便とともに虫卵を体外に排出することになります。この虫卵に汚染された水や食品を摂取することにより、ブタだけでなく人も感染し、体内で有鉤嚢虫になります。有鉤嚢虫は体の様々な場所に寄生しますが、脳に寄生することもあります。多数の虫卵を摂取することにより、脳が虫だらけになっていることがあります。有鉤嚢虫が脳に寄生すると、体が痙攣したり、意識を失ったり、失明したり、場合によっては死亡することがあります。有鉤嚢虫症は、他の人の大便が原因となる以外にも、自分の体内に寄生している有鉤条虫からうつってしまうこともあります。

エキノコックス症は、主に肝臓に寄生するエキノコックスという寄生虫の幼虫に寄生されることによっておこる病気です。主にキツネやイヌなどの糞に虫卵が含まれており、この虫卵で汚染された食品や水を摂取することによりエキノコックスに寄生されます。寄生された後、数年(1~30年)はなにも自覚症状はないのですが、その間にエキノコックスは、少しずつ肝臓などの臓器を食べ続けており、自覚症状が現れたときには、肝臓は寄生虫に食い荒らされて蜂の巣のようになっています。残った部分も肝硬変を起こして正常な部分がほとんど残っていません。さらに、肝臓から漏れ出た寄生虫が脳、その他の臓器や骨髄などに寄生し、死亡します。

バンクロフト糸状虫は、蚊にさされることによってうつる寄生虫です。症状が全くないことも少なくないのですが、重症化することもあります。この寄生虫はリンパ管、腕や足などに寄生しますが、陰嚢や陰茎に寄生することもあります。陰嚢に寄生すると陰嚢が巨大化し、重症の場合には陰嚢が大きくなりすぎて歩くのが困難になります。江戸時代に陰嚢が巨大化した芸人が複数存在したことが文献(「想山著聞奇集」「東海道中膝栗毛」「北斎漫画」)に記載されています(大きいもので五斗=90リットルくらいあったようです)が、これらの芸人はバンクロフト糸状虫に感染したものだろうと言われています。

寄生虫には、肉眼では見ることの難しい小さな原虫というものと、指でつまむことのできるくらいおおきな蠕虫というものがあります。以下に様々な蠕虫の例を示します。
 
(1)食べ物や水で感染する寄生虫
(1)鉤虫症(十二指腸虫;ズビニ鉤虫・アメリカ鉤虫など)

食べ物による経口感染の場合
症状 :
初期には悪心、嘔吐、咽頭の異物感、喘息様発作、感染後期には貧血、動悸、全身倦怠、頭痛などでまれに異常な物(髪の毛、炭、土)を食べる異味症が現れることがある。
潜伏期 :
初期症状は2~3日、後期の症状は1~2ヶ月程度
分布 :
アジア地域 : 中国、韓国、東南アジア諸国、インド、バングラデシュ、スリランカ
アメリカ地域 : アメリカ合衆国メキシコ湾沿岸部、メキシコ、中米、ベネズエラ、ガイアナ、ブラジル
アフリカ地域 : モロッコ、アルジェリア、リビア、エジプト、マダガスカル、中央アフリカ一帯
その他 : イタリア、トルコ、ヨルダン、イラク、サウジアラビア、シリア
予防法 :
野菜、特に葉野菜によって感染するケースが多いため、綺麗に洗ってあるもの以外は口にしないこと。皮膚からも感染するので裸足は禁物。

感染幼虫
(2)顎口虫症(有棘顎口虫・ドロレス顎口虫・剛棘顎口虫)

症状 :
この寄生虫は皮膚(皮下)に寄生するため皮膚の腫れ、痛痒感、発赤などの症状が現れる他、皮膚上に寄生虫が移動するため皮膚爬行症や移動性の浮腫を起こすのが特徴です。
潜伏期 :
通常3~4週間程度と言われています。
分布 :
有棘顎口虫は中国、韓国、東南アジア全域に分布。ドロレス顎口虫はインド、フィリピン、マレー半島。剛棘顎口虫はヨーロッパ、東南アジア諸国。
予防法 :
有棘顎口虫とドロレス顎口虫は淡水魚(雷魚、ドジョウなど)剛棘顎口虫は生の豚肉から感染しますので、これらの食べ物に注意することが予防となります。

有棘顎口虫
(3)メジナ虫症(ギニア虫症)

症状 :
皮下(下肢)の水疱、発疹、発熱、悪心、嘔吐、下痢などアレルギーによる症状が現れる。水疱は最終的に破れて潰瘍になることが多い。
潜伏期 :
非常に長く9ヶ月~1年以上
分布 :
インドからアラビア半島にかけて広く分布している。その他、ミャンマー、トルコ、イラン、スーダン、中部及び東沿岸のアフリカ地域、南米のギアナ、ブラジルなど
予防法 :
淡水にいるミジンコが感染源になっていますので、これを含んだ水を飲むことで感染します。この寄生虫が流行する地域では生水は禁物です。

皮膚から出る メジナ虫
(4)旋毛虫症

症状 :
感染初期は下痢、腹痛、中期は筋肉痛により呼吸や摂食が障害され、重症の場合には次第に衰弱して貧血や急性心不全を起こし死亡することがある。
潜伏期 :
初期症状が現れるのは1~2週間、中期は2~6週間。全身症状は6週間以降に現れます。
分布 :
北米、ヨーロッパに分布しています。
予防法 :
豚肉で作った自家製のソーセージが原因になることが多いようです。現在、発生数は多くありませんが非常に怖い寄生虫です。生や加熱不足の豚肉、猪の肉を避けることが感染予防となる唯一の手段です。

雄成虫
(5)肝吸虫症(肝臓ジストマ症)

症状 :
軽症では食欲不振、倦怠感、下痢などが現れる。重症では重大な肝機能障害がおきます。
潜伏期 :
数ヶ月から数年。
分布 :
アジア地域に分布し、中国、韓国、台湾、タイ、ベトナム、カンボジア、ラオスに多い。
予防法 :
フナ、コイ等の淡水魚が感染源になるので刺身で食べないこと。

肝吸虫
(6)肺吸虫症(ウエステルマン肺吸虫症)

症状 :
咳と血痰が主症状ですが、この虫が肺以外に寄生すると、症状が異なり、特に脳に寄生すると頭痛、嘔吐、癇癪様の発作、運動障害が起こる。
潜伏期 :
2~3ヶ月
分布 :
アジア地域 : 韓国、中国、台湾、タイ、フィリピン、マレーシア、ベトナム、インドネシア、インド
南米地域 : ペルー、エクアドル、コロンビア、コスタリカ
アフリカ地域 : カメルーン、ナイジェリア
予防法 :
淡水産のカニが感染源で、このカニを生食、加熱不足で食べると感染します。

肺吸虫
(7)有鉤条虫症

症状 :
腹痛、下痢などの消化器症状が主で、皮下に寄生すると指先大のコブが出来る。
潜伏期 :
約3ヶ月
分布 :
韓国、中国、モンゴル、インド、タイ、中近東、ロシア 、東欧諸国、中南米
予防法 :
豚が感染源で、生や加熱不足の豚肉を食べることによって感染が成立します。流行地では豚肉は要注意。

有鉤条虫
無鉤条虫
(8)無鉤条虫症

症状 :
腹部不快感、腹痛、下痢、食欲減退、全身倦怠感など寄生虫が大きい割に症状は比較的軽い。
潜伏期 :
約2ヶ月
分布 :
全世界に広く分布しているが、食肉の管理が悪い発展途上国での発生が多い。
予防法 :
生や加熱不足の牛肉を食べることで感染しますので、衛生状態の悪い国や地域での生肉の摂取は要注意。
 
(2)皮膚から侵入して感染する寄生虫
(1)日本住血吸虫症

症状 :
感染初期;皮膚炎急性期;消化器症状、特に赤痢様の下痢慢性期;肝臓障害、肝硬変、脾腫、腹部膨大
重症になると死亡する。
潜伏期 :
皮膚炎は感染直後に現れるが、主症状は4~6週間
分布 :
中国の揚子江流域、フィリピンのレイテ島など、インドネシアのスラウェシ島の一部、インドシナ半島のメコン川流域に発生している。
予防法 :
淡水中にこの寄生虫は生息しているので、流行している地域では絶対に裸足で水の中に入らないこと。

雌成虫
(2)マンソン住血吸虫症

症状 :
日本住血吸虫に似るが比較的軽度。
潜伏期 :
皮膚炎は感染直後に現れるが、主症状は2~3週間
分布 :
熱帯アフリカ諸国、南米の熱帯・亜熱帯地域に分布 ブラジル、ベネズエラ、ギアナ、プエルトリコなど
予防法 :
淡水中にこの寄生虫は生息しているので、流行している地域では絶対に裸足で水の中に入らないこと。

虫卵
(3)ビルハルツ住血吸虫症

症状 :
血尿、排尿痛、膀胱癌になるとの報告もある。
その他の症状は日本住血吸虫に似るが比較的軽度。
潜伏期 :
2~3ヶ月
分布 :
マンソン住血吸虫とほぼ同じ地域に分布しており、熱帯アフリカ、特にナイル川流域に多く、地中海沿岸、トルコ、シリア、イラクにも発生がある。
予防法 :
淡水中にこの寄生虫は生息しているので、流行している地域では絶対に裸足で水の中に入らないこと。

虫卵
(4)鉤虫症(十二指腸虫;ズビニ鉤虫・アメリカ鉤虫など)

症状 :
幼虫が皮膚から侵入する際に起こる皮膚炎(点状皮膚炎)その後の症状は経口感染時と同じ。
潜伏期 :
皮膚症状は感染直後。
分布 :
経口感染時と同じ。
予防法 :
流行地では土壌や水の中に生息するため裸足は禁物。
 
 
(3)昆虫によって感染する寄生虫
(1)糸状虫症(フィラリア症;バンクロフト糸状虫症・マレー糸状虫症)

症状 :
リンパ腺炎、悪寒、発熱、など
潜伏期 :
6ヶ月~1年
分布 :
バンクロフト糸状虫はアジア、アフリカ、中南米に広く分布しています。マレー糸状虫は熱帯・亜熱帯のアジア地域全域
予防法 :
蚊に吸血されることで感染します。防虫スプレーや皮膚を露出しない服装で蚊を避けることが唯一の予防。

バンクロフト糸状虫の幼虫





糸状虫成虫
(2)オンコセルカ症(回旋糸状虫症)

症状 :
皮膚に痛みのないコブや痒みを伴う皮膚炎を起こす。目にも角膜炎や視力障害が現れることがあります。
潜伏期 :
約1年
分布 :
アフリカ : 赤道から南北緯25度の範囲
中南米 : メキシコ南部、グアテマラ、ベネズエラ、コロンビア、ガーナ、ギニアなど
予防法 :
ブユに吸血されることで感染しますので吸血されないように防虫スプレーや肌を露出しない服装で防御。
(3)ロア糸状虫症

症状 :
皮膚に移動する浮腫が現れ、目に虫が移動すると、目に疼痛や浮腫がでます。
潜伏期 :
不定
分布 :
中央・西アフリカ地域に広く分布。特にコンゴ民主共和国、コンゴ共和国、アンゴラ、ガボン、中央アフリカに多い。
予防法 :
アブが感染源。流行する地域ではアブに刺されないように防虫スプレーや肌を露出しない服装をすること。

海外で病院にかかるために

言葉や習慣の異なる海外で病院にかかるのに不安を覚える方は多いでしょう。万が一の場合を考え、準備しておくことには次のようなものがあります。
旅行保険

海外で病院にかかるために万が一の際、保険に加入していないと多額な費用に対応できない可能性があります。一般的に、クレジットカード付帯の保険では不十分なことが多いです。
詳しくは、「いざという時の旅行保険」をご参照ください。

海外の医療施設に関する情報収集

以下のサイトに海外の医療施設に関する参考情報が掲載されています。渡航目的地別にあらかじめ情報を入手しておいてください。

(参考)外務省「在外公館医務官情報


使用している薬剤について情報の携帯

・処方箋:薬剤の一般名も記載された処方箋のコピーを準備してください。
・注射薬:注射薬については、医療機関名や住所が印刷された用紙に内容を記載するよう、処方した医師に依頼してください。
・上記の内容が添えられた紹介状
 (→「慢性の病気のある方に」)

連絡先情報

自分の連絡先が相手側にわかるように、英文もしくは現地語で、連絡先が書かれたカードを用意しておきましょう。カードには以下の住所、電話番号を記載しておきます。

・渡航地の日本大使館、領事館
・現地在住の友人、日本在住の家族
・日本のかかりつけ医、かかっている病院

こどもを連れた旅行では

こどもを連れて海外旅行する人の数は増えつつあります。海外旅行はこどもにとってえがたい経験になるかもしれません。しかし、旅行によって、こどもがかかりやすい感染症にさらされたりした結果、思わぬ病気に見舞われることもあります。ここではこどもの持つ特徴に的を絞って、海外旅行で起こりうる問題への対応について考えましょう。

乗り物に関する問題

飛行機での移動

大人とこどもで一つのシートベルトを使用することは危険です。航空会社によっては、大人のシートベルトにつける形のこども用シートベルトを配ってくれるところもあります。こども用に座席を予約していれば、チャイルドシートを貸してくれる場合もあります。
乳児の場合、赤ちゃん用の小さなベッドが使えることがあります。前もって航空会社にご相談ください。 飛行機の上昇、下降にともなって、こどもでは耳の痛みがよく起こります。乳児には、不機嫌になったら哺乳瓶で飲料を飲ませられるように準備しておくとよいでしょう。また、年長児には、アメをなめさせると効果があります。
呼吸器の病気や、生まれつきの心臓の病気がある場合、飛行機の上昇にともない酸素が地上の80%程度に薄くなるため、病気が悪化することがあります。かかりつけ医に、飛行機での旅行が可能かどうか確認し、必要に応じて航空会社と相談して酸素などの準備をしてください。

車を使った移動

国内での車の使用に準じて、チャイルドシートを確保してください。発展途上国では車にシートベルトが装備されていないことがあります。車での移動を考慮する際には、現地の情報を入手することが重要です。

事故を防ぐ
 

虫除けについて

こどもの場合、蚊でうつるマラリアデング熱などの感染症は大人に比べて重くなりやすく、命にかかわることがしばしばあります。このような病気がはやる地域では、虫よけ対策を十分に行って下さい。特に以下に注意してください。

・エアコンのある部屋、窓に網戸がある部屋に宿泊し、できる限り蚊帳の下で寝かせるようにしなければなりません。
・バギーには蚊帳を張って使用することをご検討ください。
・屋外では長ズボンや長袖など、皮膚を覆る服を着せましょう。
・虫除け剤は皮膚が露出しているところにだけつけ、傷口を避けてください。
・虫除け剤は、こどもの目や口には使用せず、耳の周囲は量を控えめにしてください。
・薬による事故を防ぐために、こどもには虫除け剤を触らせず、大人が自分の手で虫除け剤を付けてあげてください。また、こどもの手の届かないところに虫除け剤を保存してください。
・こどもは手を口に持っていくことが多いため、こどもの手には虫除け剤を付けないようにしてください。
・外出から戻ったら、石鹸と水で皮膚を洗って虫除け剤を早めに落としてあげてください。
・蚊取り線香を使う際にはやけどに注意してください。

下痢になった場合には

食べ物・水に注意をするのはもちろんですが、こどもは大人に比べて免疫がなく、また、手指の衛生が保ちにくいため、下痢をきたす消化器系の感染症にかかりやすい傾向があります。一旦下痢をし始めると、こども特に乳児は容易に脱水になりますので、水分補給をしっかりと行う必要があります。
 
乳児の脱水の程度(米国疾病管理予防センター Yellow Book 2012より)
脱水の程度 軽い
(体重減少4%~5%
中くらい
(体重減少6%~9%)
重い
(体重減少10%以上)
状態 喉が渇く、落ち着かない 喉が渇く、落ち着かない、興奮しやすい 眠りがち、速く深い呼吸
ふつう 速く弱い 速く弱い
ふつう 落ちくぼむ ひどく落ちくぼむ
あり なし なし
粘膜 やや乾燥 乾燥 乾燥
皮膚の張り ふつう 低下している 著しく低下している
尿 ふつう 減っており、濃い 数時間みられない

次のような場合には、すぐに医療機関で診てもらってください。

・中くらい以上(表を参照)の脱水がみられる場合
・下痢に血が混じる場合
・38℃台後半の熱がある場合
・続けて吐いてしまい、水分がとれない場合
・よくわからないが具合が悪そうな場合

こどもの下痢に際してはORS(経口補水液)を使って、頻回に水分を与えましょう。ORSはほとんどの国で、売店や薬局で売っています。ボトルで売っている水や煮沸した水に加えて使用します。(ORSが手に入らない場合には自分で作ることもできます。こちらを参照)10kg未満のこどもには、下痢がある度に60~120mlずつ投与します。10kg以上のこどもでは、この倍を与えます。母乳栄養の乳児には、母乳を欲しがるときに応じて母乳を与えます。

動物に触らせないように

こどもは動物が大好きです。しかし、動物は安全ではなく病気を持っていると考えてください。狂犬病は症状が出ると助からない病気ですが、大人よりもこどもで死亡者が多いです。これは、こどもが動物を触りたがること、咬まれても大人に伝えないこと、身長が低く、脳に近い頭や首を咬まれやすいこと、咬まれた傷が深いことなどによります。

・動物には近寄らないように、また、動物に触れたり、咬まれたりした場合には必ず大人に知らせるように、こどもに教えてください。
・狂犬病のある地域(地図)で哺乳動物に咬まれたら、水と石鹸で徹底的に洗ってください。そして、直ちに医療機関を受診し、狂犬病予防のために狂犬病ワクチン接種を受けてください。

水辺ではこどもの監視を

・旅行中のこどもの死亡原因の第2位は、水の事故です。必ず水辺ではこどもを見張る人を決めておき、決してこどもから目を離さないようにしてください。
住血吸虫症が流行する地域では、殺菌処理されていない淡水で泳ぐと、この寄生虫がうつってしまうことがあります。こどもも大人も泳がないようにしてください。

こどもは日焼けに弱い

新生児や乳児は皮膚が弱いため、日光にさらされないように十分に注意しなければなりません。(万が一、重い日焼けになったら直ちに医療機関で診てもらう必要があります。)日光の強い季節、強い場所では、赤ちゃんは日かげにおき、衣服で全身を覆うようにしてください。また、日焼け止めの使用もご考慮ください。

日焼けを防ぐ

里帰りで海外に行く前に

今日の日本では国際結婚の方も多いと考えられます。そして、ご家族の故郷である外国に里帰りする機会も増えていると考えられます。ふつうの旅行者に比べて、里帰り目的の旅行者は、感染症にかかりやすいことが知られています。それには、次のような特殊な要因がからんでいます。

感染症に接触する機会が多い。

一般に感染症のリスクが高いのは地方です。里帰りでは、地方で親族や現地の人と密接な関わりを持つことから、地方に多い感染症に接触する可能性が高くなります。また、一般の旅行者に比べて、長期間滞在する傾向があることも、接触の可能性を高めます。

感染症に対して、「免疫があると誤解している」人が多い。

現地の出身者でも、感染症に触れなくなってしまったことから自然に免疫が低下しています。もちろん、日本人の配偶者や日本で生まれた子どもには、現地ではやっている感染症への免疫はありません。

里帰りで海外に行く前の注意点

ワクチンをしっかりと受けましょう。

日本で定期接種対象となっている通常のワクチンを受けたことを確認してください。定期接種の対象となっている麻しんなどの感染症がしばしば流行します。接種されていない場合には、医師に早めにご相談ください。A型肝炎の流行地に里帰りする場合には、A型肝炎ワクチン(日本のワクチンは16歳以上が対象)を考慮しましょう。A型肝炎流行地の出身者でも免疫のない人がいます。


マラリアデング熱チクングニア熱などの蚊でうつる感染症、その他、虫でうつる感染症を予防しましょう。

虫よけ対策のために、蚊帳や虫除け剤などを準備してください。マラリアの流行地域では、虫除け対策に加えて、マラリアの予防薬を内服する必要があるかもしれません。里帰り前に医療機関(トラベルクリニックなど)にご相談ください。

現地での注意点

地域で流行している寄生虫や動物からうつる感染症に注意しましょう。

場所によっては、皮膚から入る寄生虫に感染しないように、素足で歩かない、水に入らないといった注意を守る必要があります。家畜の感染症が人にうつることがあります。むやみに動物に近づかないようにしてください。

食べ物や水に注意しましょう。

地元の人と交流を保つ必要性から難しいところもありますが、可能な限り十分に火の通った食べ物をとるようにしてください。

結核に注意しましょう。

結核の多い発展途上国では、ホームレスの多い地域や人ごみを避けるようにしましょう。何はともあれ、適切なワクチンの接種、マラリア予防薬の処方、地域に適した指導を受けるために、里帰り前に旅行前の診察を受けることが重要です。

準備できたかチェックしよう