海外から帰ってきてから発熱することは多く、特に発展途上国から帰ってきた人では2~3%にみられると言われています。発熱の多くは感染症によって生じ、自然におさまることもありますが、マラリアなど急速に進行し命に係わる感染症から生じ、迅速な治療が必要な場合もあります。旅行後に発熱がある場合、次の点に注意し、時期を逃さないように診察・治療を受けましょう。
マラリアの流行地域(流行地域地図)に滞在し始めてから、6日以上たって発熱がみられ始めた場合、ただちに診断のために検査を受けてください。マラリアと診断された場合には、すぐに治療を開始しなければなりません。予防薬を飲んでいてもマラリアにかかる場合があります。
初めははっきりとしなくても、次第に皮膚に異常がでたり、お腹が痛んだりといった症状が出る場合にも注意が必要です。
旅行先によって流行している疾患は異なります。感染症には症状のでない期間(潜伏期間)があります。ある滞在地に入ってから発熱するまでの経過時間は、特定の感染症を疑うために重要です。
都市部ツアー、農村部への旅行、親戚の訪問、冒険旅行では、リスクが異なります。
たとえば:
生水や衛生状態の怪しい食べ物をとりませんでしたか?
住血吸虫症がはやっている土地で淡水にはいりませんでしたか?
動物に咬まれたり、引っ掻かれたりしませんでしたか?
蚊やダニに刺されたり、咬まれたりしなかったでしょうか?
不特定対象に性的な接触を持ちませんでしたか?
医療機関にかかった際に注射を受けませんでしたか?
宿泊先では空調や網戸があり、蚊の侵入を防げていたでしょうか。
たとえば、A型肝炎の予防接種を受けていれば、A型肝炎の可能性は非常に低くなります。
滞在してから発熱するまでの経過時間によって、次のような感染症を考えなければなりません(滞在場所によって頻度は異なります)。
感染症 | 潜伏期(範囲) | 流行地域 |
---|---|---|
チクングニア熱 | 2~4日(1~14日) | 熱帯、亜熱帯(東半球) |
デング熱 | 4~8日(3~14日) | 熱帯、亜熱帯 |
日本脳炎、ダニ媒介性脳炎、ウエストナイル熱 | 3~14日(1~20日) | 地域によって原因ウイルス種が異なる |
腸チフス | 7~18日(3~60日) | 特にインド亜大陸 |
急性HIV感染症 | 10~28日(10日~6週) | 世界中 |
インフルエンザ | 1~3日 | 世界中、飛行機の中でも |
レジオネラ症 | 5~6日(2~10日) | 世界中 |
レプトスピラ症 | 7~12日(2~26日) | 世界中、熱帯地域に最も多い |
マラリア(熱帯熱) | 6から30日 | 熱帯、亜熱帯 |
マラリア(三日熱) | 8~30日(しばしば1か月を超える) | 熱帯、亜熱帯 |
リケッチア感染症 | 数日から2~3週間 | 地域によって原因となる種類が異なる |
感染症 | 潜伏期(範囲) | 流行地域 |
---|---|---|
腸チフス、レプトスピラ症、マラリア | それぞれの潜伏期間について上記を参照 | 地理分布については上記の該当部分を参照 |
アメーバ赤痢(肝膿瘍) | 数週~数か月 | 発展途上国で多い |
A型肝炎 | 28~30日(15~50日) | 発展途上国で多い |
E型肝炎 | 26~42日(2~9週) | 広い範囲 |
住血吸虫症(急性期) | 4~8週 | サハラ以南で最も多い |
感染症 | 潜伏期(範囲) | 流行地域 |
---|---|---|
アメーバ赤痢(肝膿瘍)、B型肝炎、E型肝炎、マラリア | 潜伏期間については上記の該当部分を参照 | 地理分布については上記の該当部分を参照 |
内臓リーシュマニア | 2~10か月(10日から数年) | アジア、アフリカ、ラテンアメリカ、南ヨーロッパ、中東 |
結核 | 初感染では数週、再燃では数年 | 世界中、感染率や薬の効きにくさについては地域で異なる |
(アメリカ疾病管理予防センター Yellow Book 2012より)
地域 | 発熱をきたす感染症として一般的なもの | その他の感染症 |
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カリブ海 | デング熱、マラリア | ヒストプラスマ症、レプトスピラ症 |
中米 | デング熱、マラリア(主に三日熱) | レプトスピラ症、ヒストプラスマ症、コクシジオイデス症 |
南米 | デング熱、マラリア(主に三日熱) | バルトネラ菌関連疾患、レプトスピラ症 |
南・中央アジア | デング熱、腸チフス、マラリア | チクングニア熱 |
東南アジア | デング熱、マラリア | チクングニア熱、レプトスピラ症 |
サハラ砂漠より南のアフリカ | マラリア(主に熱帯熱)、リケッチア感染症、住血吸虫症、フィラリア症 | トリパノソーマ症、髄膜炎菌性感染症 |
(アメリカ疾病管理予防センター Yellow Book 2012より)