旅行から帰って

止まらない下痢

海外旅行に行った人の半数以上の人が旅行先で下痢になります。たいていの下痢は数日でおさまることが多いのですが、帰国してからも下痢の症状がおさまらない場合があります。
このような場合、おおまかに言って次のような可能性があります。

・まだ下痢の原因となった感染がおさまっていない。
・消化器の病気が、感染をきっかけに明らかになった。
・感染後にみられる腸の過敏

感染が続いている場合

症状が長引く場合には、寄生虫による感染症を考える必要があります。特に、ジアルジア症(ランブル鞭毛虫症)アメーバ赤痢といった病気に注意しなければなりません。通常の抗生物質は効かず、放置すると内臓に大きな障害をきたすことがありますので、検便検査などの検査を早めに受ける必要があります。
また、抗生物質を長く飲んでいると、腸内にみられる細菌の種類が変わり下痢が止まらなくなることがあります。

消化器の病気

炎症性腸疾患と呼ばれる病気などが、旅行の際の下痢に引き続いて起こることがあります。下痢に加えて、発熱、血便などがみられる場合には注意が必要です。

感染後の腸の過敏

胃腸炎を起こした後には、過敏性腸症候群といって、明らかな原因が特定できずに下痢や便秘、腹痛といった症状が繰り返される場合があります。
いずれにしても、海外旅行後に下痢が長引いている場合には、しっかりと診断を受け、それに応じた治療が必要になります。必ず、医療機関を受診するようにしてください。

旅行後の発熱

海外から帰ってきてから発熱することは多く、特に発展途上国から帰ってきた人では2~3%にみられると言われています。発熱の多くは感染症によって生じ、自然におさまることもありますが、マラリアなど急速に進行し命に係わる感染症から生じ、迅速な治療が必要な場合もあります。旅行後に発熱がある場合、次の点に注意し、時期を逃さないように診察・治療を受けましょう。

まず注意すべきこと

マラリア、特に熱帯熱マラリアは急速に悪化することがあります。
マラリアの流行地域(流行地域地図)に滞在し始めてから、6日以上たって発熱がみられ始めた場合、ただちに診断のために検査を受けてください。マラリアと診断された場合には、すぐに治療を開始しなければなりません。予防薬を飲んでいてもマラリアにかかる場合があります。

以下のような症状が同時にみられる場合には、緊急で医療機関におかかりください。

・発疹
・呼吸困難
・息切れ
・咳が続いている
・意識がぼんやりとしている
・けががなかったのに、内出血など異常な出血がみられる
・下痢が続いている
・乗り物酔いでないのに嘔吐が続く

その他
初めははっきりとしなくても、次第に皮膚に異常がでたり、お腹が痛んだりといった症状が出る場合にも注意が必要です。

旅行に関する情報を整理しましょう

(1)旅行先と旅行期間
旅行先によって流行している疾患は異なります。感染症には症状のでない期間(潜伏期間)があります。ある滞在地に入ってから発熱するまでの経過時間は、特定の感染症を疑うために重要です。

(2)旅行目的は何だったでしょうか。
都市部ツアー、農村部への旅行、親戚の訪問、冒険旅行では、リスクが異なります。

(3)旅行先で何があったか思い出してみましょう。
たとえば:
生水や衛生状態の怪しい食べ物をとりませんでしたか?
住血吸虫症がはやっている土地で淡水にはいりませんでしたか?
動物に咬まれたり、引っ掻かれたりしませんでしたか?
蚊やダニに刺されたり、咬まれたりしなかったでしょうか?
不特定対象に性的な接触を持ちませんでしたか?
医療機関にかかった際に注射を受けませんでしたか?

(4)宿泊先について
宿泊先では空調や網戸があり、蚊の侵入を防げていたでしょうか。

(5)前もって予防接種を受けていたでしょうか。
たとえば、A型肝炎の予防接種を受けていれば、A型肝炎の可能性は非常に低くなります。

感染症には潜伏期があります

滞在してから発熱するまでの経過時間によって、次のような感染症を考えなければなりません(滞在場所によって頻度は異なります)。

潜伏期間が14日未満のもの  
 感染症                          潜伏期(範囲)                           流行地域
 チクングニア熱  2~4日(1~14日)  熱帯、亜熱帯(東半球)
 デング熱  4~8日(3~14日)  熱帯、亜熱帯
 日本脳炎ダニ媒介性脳
 ウエストナイル熱
 3~14日(1~20日)  地域によって原因ウイルス種
 が異なる
 腸チフス  7~18日(3~60日)  特にインド亜大陸
 急性HIV感染症  10~28日(10日~6週)  世界中
 インフルエンザ  1~3日  世界中、飛行機の中でも
 レジオネラ症  5~6日(2~10日)  世界中
 レプトスピラ症  7~12日(2~26日)  世界中、熱帯地域に最も多い
 マラリア(熱帯熱)  6から30日  熱帯、亜熱帯
 マラリア(三日熱)  8~30日(しばしば1か月を超える)  熱帯、亜熱帯
 リケッチア感染症  数日から2~3週間  地域によって原因となる種類
 が異なる


潜伏期間が14日から6週間のもの  
 感染症                          潜伏期(範囲)                             流行地域
 腸チフスレプトスピラ症
 マラリア
 それぞれの潜伏期間について上記を参照)  地理分布については上記の該
 当部分を参照
 アメーバ赤痢(肝膿瘍)   数週~数か月  発展途上国で多い
 A型肝炎  28~30日(15~50日)  発展途上国で多い
 E型肝炎  26~42日(2~9週)  広い範囲
 住血吸虫症(急性期)  4~8週  サハラ以南で最も多い


潜伏期間が6週間を超えるもの  
 感染症                          潜伏期(範囲)                           流行地域
 アメーバ赤痢(肝膿瘍)、B型
 肝炎E型肝炎マラリア
 潜伏期間については上記の該当部分を参照  地理分布については上記の該当部
 分を参照
 内臓リーシュマニア  2~10か月(10日から数年)  アジア、アフリカ、ラテンアメリ
 カ、南ヨーロッパ、中東
 結核  初感染では数週、再燃では数年  世界中、感染率や薬の効きにくさ
 については地域で異なる

(アメリカ疾病管理予防センター Yellow Book 2012より)

地域に特徴的な感染症があります。

 地域                             発熱をきたす感染症として一般的なもの         その他の感染症
 カリブ海  デング熱マラリア  ヒストプラスマ症レプト
 スピラ症
 中米  デング熱マラリア(主に三日熱)  レプトスピラ症ヒスト
 プラスマ症コクシジオイ
 デス症
 南米  デング熱マラリア(主に三日熱)  バルトネラ菌関連疾患
 レプトスピラ症
 南・中央アジア  デング熱腸チフスマラリア  チクングニア熱
 東南アジア  デング熱マラリア  チクングニア熱レプトス
 ピラ症
 サハラ砂漠より南のアフリカ  マラリア(主に熱帯熱)、リケッチア感染症
 住血吸虫症フィラリア症
 トリパノソーマ症髄膜炎
 菌性感染症

(アメリカ疾病管理予防センター Yellow Book 2012より)

何か変?-旅行後の健康チェック

海外旅行から帰ってきて、何らかの体調不良を訴える方は、実に全旅行者の数十パーセントに及ぶと言われています。中でも下痢などの胃腸症状、皮膚の異常、咳、そして発熱がよくみられる症状です。自然に回復することも多いのですが、特殊な感染症による体調不良で、感染症に対して治療が必要な場合もあります。

・海外旅行、特に発展途上国を旅行した後、少なくとも6か月の間は、旅行関連の感染症が生じる可能性があることを覚えておきましょう。医療機関にかかる際には、必ず海外旅行したことを告げてください。デング熱やリケッチア感染症による症状は、ほぼ帰国後3週間以内にみられますが、マラリアなどの寄生虫による感染症や、一部の細菌による感染症の症状は、数週間から数か月あるいは数年たってから生じることもあります。

・帰国した旅行者にみられる発熱の場合、重大な感染症から生じている可能性があります。特に、マラリアやデング熱の流行地域から帰国し発熱がみられる場合には、必ず医療機関にかかってください。マラリア、中でも熱帯熱マラリアは急速に悪化することがあります。
旅行後の発熱

・帰国してからも下痢の症状がおさまらない場合には、ジアルジア症(ランブル鞭毛虫症)アメーバ赤痢といった寄生虫による感染症も考えられます。放置すると内臓に問題を起こす場合もありますので、原因をしっかりと調べてもらうことが重要です。
止まらない下痢

・皮膚の異常も旅行後によくみられる症状です。発熱も同時にみられる場合、全身の感染症をともなっていることが多く、速やかに医療機関を受診する必要があります。
痒い!痛い!皮膚の異常

海外旅行後の体調不良には、思わぬ感染症が潜んでいる可能性があります。早めに医療機関を受診しましょう。医療機関の受診にあたっては、症状に加えて次の情報を整理しておき、医師に伝えましょう。

・旅行先、旅行期間、旅行の目的、旅行中の行動、宿泊先の状況(虫除け対策ができていたか)、旅行前の予防接種

医療機関にかかる前の情報整理に、次のチェックシートもご参考になさってください。

病院にかかる前のチェックシート